2017年2月7日火曜日

ピチカート・ファイヴの2001年の名盤「さ・え・らジャポン」を2017年のお正月に聞くべき理由

今更の公開お恥ずかしいですが、お正月に思った事をコラムにしてみましたので、良かったらご覧ください。


今年のお正月、実家で自分の部屋の荷物を片づけをしていて見つけたCDが、改めて聞いたらつくづく名盤でした。しかも、その内容が2017年の今こそ聞くべき内容だと思ったので、ご紹介します。

そのCDとは、ピチカート・ファイヴの『さ・え・ら ジャポン çà et là du japon』というアルバムです。


ピチカート・ファイヴとは?

『さ・え・らジャポン』の前に、ピチカート・ファイヴってバンド、みなさんご存知ですか?意外と知らない方もいるかもしれませんね。

ピチカート・ファイヴは、1990年代の日本において一世を風靡した「渋谷系」という系統に属しており、代表曲の「東京は夜の7時」で有名です。途中何度かのメンバーチェンジを経てはいますが、おおざっぱにいうとルックス・ファッション面で評価が高いボーカルの野宮真貴と、曲作り・アートワーク等の全体プロデュースをしている小西康陽の二人組のグループです。海外での評価も高く、バンドが存続していたころは海外ツアーなんかもやっていました。

『さ・え・らジャポン』とはどんなアルバムか?

『さ・え・ら ジャポン çà et là du japon』は、2001年1月1日に発売されたピチカート・ファイヴ最後のオリジナルアルバムです。

この作品は非常にコンセプチュアルなアルバムで、それを一言でいうと「『外国人から見た』という形を借りて、キツめのユーモアと愛で日本(特に東京)を描く」です。外国人視点の日本っぽいもの、ということで「さくら」「着物」「お正月」等の要素が散りばめられています。以下の曲目リストからも、その一端が分かります。

『さ・え・ら ジャポン çà et là du japon』曲目リスト

1. 一月一日 '1 janvier'
2. ノンストップ・トゥ・トーキョー 'nonstop to tokyo'
3. 君が代
4. さくらさくら 'sakura sakura'
5. 現代人 'moderns'
6. キモノ 'kimono'
7. FASHION PEOPLE ''fashion people'
8. アメリカでは ''in america'
9. ポケモン言えるかな? ''Gatta call'em all'
10. グランバザール 'grand bazar'
11. 12月24日 ''24 decembre'
12. スキヤキ・ソング ''sukiyaki song'
13. 東京の合唱~午後のカフェで ''à tokyo'
14. さ え ら ''çà et là'
15. 大東京 ''la grand tokyo'
16. 愛餓を 'aiueo'

CDジャケットのアートワークは、小西さんがファンである市川崑監督の名作『東京オリンピック』へのオマージュです。



『さ・え・らジャポン』を今こそ聞くべき3つの理由

では、なぜその『さ・え・らジャポン』を今聞くべきなのか、以下の3つにまとめてみました。

1)取り上げている内容が今と重なる
2)起用の目利きぶりが今の目から見るとよくわかる
3)ピチカート・ファイヴこそ、今自慢したい大人の東京文化である

1)取り上げている内容が今と重なる

この中で取り上げられている、ポケモン、お正月、来るべき東京オリンピックなど、奇跡的なほどこの2017年の正月(書いてる時点で大分過ぎてしまいましたが・・・)に符合しています。2001年の小西さんが2017年の状況をわかっていたはずは無いのですが、興味深い偶然です。

2)起用の目利きぶりが今の目から見るとよくわかる

レコードマニアでDJである小西さんの起用への目利きの確かさは、今の目から見るとよりよくわかります。クレイジーケンバンドの横山剣、クレモンティーヌ、スーパー・バター・ドッグ時代の永積タカシ等、今では一定の評価を得ている人々をこの段階で起用しています。


永積タカシの参加した『一月一日』

また、それ以外にも松崎しげる、デュークエイセス、ロケットマンことふかわりょう、YOU THE ROCK★等、よくあるポップソングとは違った人選が面白いです。

3)ピチカート・ファイヴこそ、今自慢したい大人の東京文化である

さて、最後にもうひとつ言いたい事は、ピチカート・ファイヴは東京が誇る格好良い大人のバンドだという事です。

このアルバム、通して聞くと分かるのですが、ハッピーでおしゃれでお祭り気分な反面、非常に自虐的な皮肉が効いています。

例えば、『Fashion People』という曲では、"Kawakubo" "Yamamoto" "Issei Miyake"などと延々ファッションのビッグネームを挙げ連ねた上に、ワザとバカっぽく"Fashion People are special people(ファッションピープルは特別な人たち)"だから"I wanna be a friend of fashion people(ファッションピープルとお友達になりたい!)"などと歌います。

世間からは、ピチカート・ファイヴこそFashion Peopleとみなされているのに!


ファッション・音楽・映画業界を過剰に有難がる状況を皮肉る『Fashion People』

そんなお洒落で完成度が高い、なのに一歩引いて冷静に自らを茶化す態度こそ、優れている事におごらない大人の姿勢です。

それは、江戸時代から続く東京の美意識にある「粋」に通じるものだと筆者は考えます。
ここで、「粋」について書かれた著名な本である、九鬼周造の「「いき」 の構造」から引用します。
「いき」の構造とは、「媚態」と「意気地」と「諦め」との三契機を示している。

九鬼周造著「「いき」 の構造」より
それは、おしゃれ(媚態)で、クォリティが高く(意気地)、冷めている(諦め)ものが、「粋」だと言い換える事ができます。つまり、ピチカート・ファイヴこそ東京のクールネスを体現する自慢の文化だったということです。

椎名林檎と東京オリンピック

さて、ピチカート並んで、東京の「粋」を体現していると筆者が思っている人物がいます。それは、椎名林檎さんです。時に遊女様なセクシーな格好をし(媚態)、クォリティが高く(意気地)、どこか冷めている(諦め)彼女の姿は上記の「粋」の定義に当てはまります。

その、彼女が音楽監修をしたリオオリンピックでの閉会式では、五輪批判の舞台音楽を使った事が話題になりました。そのエンターテイメント性と、クールネスは、まさに粋な東京のスタイルです。

そして、同じく音楽監修をしたパラリンピックの閉会式では、ピチカート・ファイヴの代表曲「東京は夜の7時」が使われています。
https://youtu.be/78Nhl85_wIY
※埋め込みが出来ないためリンクです。曲が使われるのは7分頃から。


色々と問題続出の東京オリンピック。不満も分かるのですが、椎名林檎が関わり続ける限り、開会式に関して私は期待をします。そして、これは今は願望でしかないのですが、その年60歳の還暦になる元ピチカート・ファイヴの野宮真貴の、大人で粋な姿を期待せざるを得ないのです。

そしてだからこそ、今ピチカート・ファイヴを聞き、これからの野宮さんに注目するのが良いんじゃないのかなー、と思うわけです。


最後に、2016年11月11日行われた野宮真貴さんのライブを鑑賞した作詞家、コラムニスト、ラジオパーソナリティのジェーン・スーさんのTwitterを引用します。



もう、東京オリンピックの開会式は、これで良いんじゃない?『東京の合唱』

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